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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)653号 判決 1973年12月13日

控訴人 古谷健太郎

被控訴人 帝倉荷役株式会社

右代表者代表取締役 本多哲夫

右訴訟代理人弁護士 山根篤

同 下飯坂常世

同 広田寿徳

右訴訟復代理人弁護士 馬瀬隆之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人の被控訴人に対する金五万円の請求を棄却した部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し金五万円を支払え。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は次のとおりである。

一、請求の原因

1  控訴人は、昭和四二年二月二三日足立職業安定所河原町労働出張所の紹介で被控訴人会社に入出庫の荷役の日雇として就労し、以後右手続のもとに日日雇用され、同年三月一日からは右職業安定所を介し一ヵ月毎の雇用期間の約定で被控訴会社に就労し、それは昭和四六年一一月末日まで更新の上継続された。そして被控訴人は一ヵ月の予告期間をおき同年一二月末日をもって控訴人を解雇するに至った。

2  控訴人被控訴人間の雇用契約は、右のように一ヵ月毎に更新されるものとはいえ、それは形式的なものであり、かつ同一作業に引続き従事し、その仕事の内容も常雇の正社員と殆んど変りのないものであって、その実質においては期間の定めのない労働契約である。

右のように控訴人の地位は正社員と同視すべきものにも拘らず、被控訴人は控訴人を日雇労務者と称して昭和四六年一月から一二月まで控訴人に対し毎週土曜日の午後三時間の時間外労働を当然の義務として課した。これは被控訴会社と帝倉荷役労働組合との間に締結された労働協定および被控訴会社の「日雇労務者」就業規則中土曜日の就労時間を常雇の正社員は正午まで、日雇労務者は午後三時までとする条項を適用したものであるが、右協定および就業規則は正社員たる組合員と前述のように常傭化した臨時雇傭者たる組合員とを社会的身分により差別扱いするものであって憲法一四条、労働基準法三条に違反し、もしくは民法九〇条に違反し無効である(なお前掲就業規則は労働者の意見を聴かないで一方的に制定されたものであるからこの点においても労働基準法に違反し無効である)。被控訴会社が控訴人の同意なくして一方的に右労働協定等を適用して、土曜日の正午から午後三時まで控訴人を就労させたことは、控訴人の時間外労働賃金の権利を不法に奪ったものである。

3  控訴人は被控訴会社の右不法行為により、当時の控訴人の一時間当りの残業代金三〇〇円に右不当拘束時間の合計一四四時間を乗じた四三、二〇〇円と精神的苦痛による損害金六、八〇〇円の合計五万円の損害を蒙った。よって被控訴人に対し不法行為による損害賠償としてその支払を求める。

二、答弁

1  請求原因1の事実は認める。ただし被控訴人が一ヵ月毎の期間を指定した日雇労務者として控訴人を就労させるに至ったのは昭和四三年四月からである。

2  同2の事実中、控訴人主張のような労働協定を結んだこと、右協定および被控訴会社の「日雇労務者」就業規則にもとづいて控訴人をその主張の期間土曜日午後三時まで就労させたことは認めるが、その余は争う。

3  控訴人被控訴人間の雇傭契約は、日雇労務契約であり、一ヵ月の期間の指定があったとはいえ、それは一ヵ月の期間の定めがある雇用契約を締結したということではなく、控訴人が右の期間日雇労務者として日日就労することを希望すれば就労の機会を与えるというにすぎず、被控訴人は控訴人をその間当然拘束する権利を有するというものではなかった。

三、証拠関係≪省略≫

理由

控訴人が昭和四二年二月二三日以降職業安定所の日日の紹介により、日雇労務者として被控訴会社の荷役作業に就労したこと、その後両者間の話合いにより、職業安定所の紹介手続を簡略化するため、被控訴人から職業安定所に対し一ヵ月の期間を指定し求人申込をなし、控訴人がこれに応募し紹介をうけて就労するという手続をとることとし、以後一ヵ月毎に右手続をくり返しその都度同一内容の条件で契約を締結し、昭和四六年一一月まで継続したことは当事者間に争いがない。

控訴人は、被控訴人との間の右雇傭契約は実質上期間の定めのない労働契約であり、控訴人の地位は常雇の正社員と同視すべきものであると主張するが、当裁判所も控訴人の右主張は、原判決理由二(原判決六枚目裏三行目から八枚目裏四行目まで)に説示するところと同一の理由によりこれを排斥すべきものと判断するものであるから、ここにこれを引用する。

次に、控訴人が昭和四六年一月から一二月まで毎土曜日の午後三時まで就労したこと、当時被控訴会社と帝倉荷役労働組合との間の労働協定および、被控訴会社の「日雇労務者」就業規則によれば、土曜日の就労時間は正社員については正午までであるのに対し日雇労務者については午後三時までとされており、控訴人の前記土曜日午後の就労も右協定および、就業規則にもとづくものであることは当事者間に争いがない。

控訴人は被控訴人が控訴人と正社員たる労務者との間に前記のような就労時間の差別を設けたことをもって社会的身分による不当な差別扱いであると主張する。

控訴人の右主張は控訴人が正社員と同視すべき地位を有することを前提とする立論であるところ、控訴人被控訴人間の雇用関係は、本判決に引用した原判決理由において認定したとおり、常雇の正社員とは異なる臨時の有期雇用契約によるものであり、かかる臨時労務者について正社員と異なる就労時間を定めたとしても、その差異は上記労働契約の内容自体に基くものであって前述のような臨時的雇傭関係の性質上許容されるべきものということができ、右のような定めをした前示労働協定および就業規則がただちに憲法一四条、労働基準法三条にいう社会的身分による差別的取扱いをしたものということはできず、また民法九〇条にいう公序良俗に反するものということもできない(なお≪証拠省略≫によれば、前示就業規則は、昭和四五年四月二五日に被控訴会社と帝倉荷役労働組合間に成立した協定をそのまま規則化したものと認められるからその制定手続に控訴人主張のような瑕疵はないものというべきである)。従って右協定および就業規則に従ってした被控訴人の行為は不法ではないから被控訴人の不法行為を前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

よって控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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